飯豊
別の場所に96年に up したものです。
山を降りるとそこは真夏だった。
山はいくら美しくても、どこか懐かしい死と滅びの匂いがするから嫌な時もありますが、そこが堪らなくぴたりと来る時もある。
稜線近くの雪渓と頂上付近まで草つきの緑が這いあがっていて、そのコントラストが非常に美しい。柄にもなくこんな散(駄)文を作ってしまう程、8月終わりの飯豊山系は天上的というべく清涼で美しい山です。但し、下から稜線までのアプローチが1日がかりと3000m級の山並みに長い。典型的な縦走でも4泊5日はかかる。我々は新発田から入って、小国に抜けました。
山塊の全体の感じは、「深く険しい」です。相当、分け入ったら、突然、急に山肌が立ち上がっているというふうです。
一点文句がある。遭難碑が多すぎる。遺族や友人の利己心の表れでしょうか。そこで死んだ人は自然を汚すことを望んでいないでしょうに。なお、11月の墓碑銘が多いところをみると、この山は11月に予期しない大雪(ものすごい)が降るようです。
湯の平温泉の水は最高に旨い。今までで1番と考えていた山梨県の白洲周辺の水に劣らない。ウイスキーの水割りにするのがもったいない。そのまま飲んだ方がはるかに旨い。
なお、残念ながら男用になっている完全に露天の風呂(現在の露天風呂)は落石の危険により使用禁止となっていて、若干、覆いのある女用の露天風呂を利用するしかなかった。湯はかなり熱い。
前線の通過直後で、山は非常に大気が澄み渡っていてなにもかもが明らかに見える。紅葉寸前の一見新緑のように見えるはかなき緑は美しく、また、風呂から見たさえざえとした月も美しい。
湯の平温泉の小屋は、8月終わりの土曜日というのに登山客は我々だけで、他に小屋の管理人の知り合いの人々が数人、蝋燭の明かりで酒盛りをしながら、遅くまで新潟弁で熊や猿の出没場所やまむし酒やムカデ酒の作り方や味(ムカデ酒は相当酷いらしい)などを話しているのを、寝袋にくるまりながらうつらうつらと聞いていました。ああ、小屋番になって俗世を忘れたい。
湯平温泉から稜線までの山道の前半はかなりきつく長い。稜線沿いの避難小屋には、さすがに20名近くの登山客がいましたが、これは已むを得ない。避難小屋といっても夏の間は番人もいてきれいです。夜中、外に出ると霧というか雲に囲まれていて、懐かしい味がした。
8月の終わりだというのに、稜線近くに雪渓が数限りなく残っていて、雪解けの水は冷たすぎ、雪面を吹き渡る風には身震いがする。なお、友人は雪渓の端から崩壊した雪とともに落ちて危うく腕を折るところでした。
稜線上には、時間を忘れて寝転んでいたい気持ちの好い芝生状の草付があります。
マツムシソウはタカネマツムシソウ、トリカブトはハクサントリカブト(たまたま出くわした日大の採取グループによれば、ここで新種が発見されたらしい)です。
稜線沿いや日のあたる径には、アカモノ(別名イワハゼ)、ウスノキ、スノキいずれもツツジ科で実生がなります。一ヶ所1cm程の高山性の苺(懐かしい味がした)がなっているところがありました。これらを3カ月もアルコールに漬けておくとおいしいはずというより色が鮮やかですが、あちらで数粒、こちらで数粒という具合に、採取には相当の時間と手間がかかります。私は、半日頭痛がするほど探しまわってやっと一握りというところでした。
なお、森の中にはアジサイが咲いていたり、稜線近くには上記のとおり苺がなっていたり、私が一番好きなリンドウが咲いていたりで、季節が一度に訪れているという感じです。