Faure と Melodies の仲間たち

歌の時代


私の音楽オタクの脳みそに「歌」が染み入ってきたのは比較的遅い。もちろん小~高校生の頃にLied(ドイツ歌曲)はだれでも嵌まるものだからこれは取り敢えず除く(「歌の時代」と題して Lied 除いてもいいのか^^;)。
それまでは,そもそも音楽に音以外の余計なもの(歌,歌詞)が入るのが嫌だったのである。お主も青臭かったな(笑)。
どうしようもなく歌に嵌まったのは30台後半である。文字通り,一日中 Faure のMelodies(「芸術歌曲」というジャンルに分類される)を聞きまくっていた。
なにせ彼は約60年の間に約100曲のメロディを作り,そのいずれもが駄作と言うべきものがないのだから聞きまくるには最高なのだ。
聞きまくっていたものは,言わずもがなの,ボールドウィンの piano で,スゼーおじさんとアメリンクおばさんが歌う,フランスで勲章をもらったあの全集(Gerard Souzay, Elly Ameling, Dalton Baldwin 1974)のことである。
もちろん音楽廃人であるから,あの曲(Apres Un Reve)はもちろん高校生のころから知ってはいた。

なお,この歌の演奏でインターネットには見るべきものが転がっていない。歌手の問題も当然あるが,piano がお粗末だったり(非常に多い)録音の問題や youtube への up 時に原音を粗くしている?などがあって聞きづらいものが多いのです。
少し邪道だがこてこてに Robert Meadmore が甘く歌うこれがまあ好きである。
器楽だとこれかな。
どちらも邪道です(笑)。

詩とメロディに相応しくささやくように歌う歌手が出てこないかしら。と,書いていたら,最近,up されたSabine Devieilhe, Alexandre Tharaud のふたりの演奏ですがかなりよい。オペラ歌手なのに(笑)。
このふたり本物 ですね。ザビーネはオペラ歌手から経歴を始めたのがまったくの誤り ですね(笑)。まあ,ソプラノだから少し軽い感じがするのは已むを得ないと思って CD をゲットしましたが,やはり軽い,歌の巧い女の子が歌っているという感じが最初から終わりまで。フランス人が3.5の評価をしていますが,そんなもんかな。Melodies を歌うには精進(笑)が必要です。

Nathalie Stutzmann
この歌手の深いアルトは背筋に悪い(褒め言葉です)とかいいながら,かなりの CD を集めたのですが,ある時から,どう私の歌って上手いでしょう,という感じが鼻につくようになりそれ以降聞かなくなってしまいました。今では指揮棒まで持つようになったのはご存じの通りですが,彼女の作り上げた曲ははたして聞くに値するものだろうか(笑)。
でもまあ,これは慢心している風もなく確かに良いできですね。
すれっからしの歌手さえ(笑)も本気にさせる名曲です。

Tenebrae Choir
arr. Alexander L’Estrange
どうも piano & 女声1 では,好ましい演奏が見当たらないと思っていたが,こういうアレンジを聞かされるとますますそう思う。
Alexander L’Estrange という編曲者が優れた音楽家なんだ。
ジェンキンスの編曲もあるがこちらの方が上だろう。
主声部以外の音が極めて美しい。これだな高校生に手に負えなかった原因↓は。piano が密かに奏でる他声部の美しさに引きずられるのだ。おれの歌っている声部は主声部かな,他の声部の方が主声部じゃないかな,とね。音符を見ながら歌っているにも関わらず自分の道を見失うという才能のない歌手の迷路です(笑)。

原曲は最高音が F だから歌うこと自体は可能だった。一応ボーイソプラノだったから(ヘヘ)。但し,この曲は凡々たる高校生には手に負えない。単純な4分の3拍子だし(この曲って3拍子なんだよね。ここにも違和感が),刺繍音を意識すれば伴奏自体も難しくはない。高校生でも楽々弾けるだろう。

だが,歌えないじゃないか。簡単なと思っていたピアノの弾く和音に自分の歌が微妙に逢わない,外れるのだ。fluteで演奏しても気持ちが悪い。わたしゃこんな簡単な曲も吹けなかったっけ? youtubeに載っている flute の曲も少ない。あの伊達男,ノンあの名手のパユもおちゃらけたアレンジでしか吹いていない。
要するに,この曲は Gerald Moore が「壊れもの注意」と言う代物で美しく演奏するのは限りなく難しい。歌も p も集中していたるところすべてを徹底的に研ぎ澄ませねばならない。サイトにも研ぎ澄まされた演奏はなかなかない。
また,このメロディを平均律で歌っていては気持ちが悪くなると思うのは私だけだろうか。但し,40才近くなると何故かそれはどうでも良くなった,というか以上の天才3名の演奏により理想的な天国の調べを聞いているからなのではあるが。
平均率しか鳴せない楽器,笛なぞで吹いてみればその気持ち悪さはすぐ分かる。特にE♭が低くなりすぎる(但し,Eメカニズムも影響しているかもしれないが)。もちろん笛の名人なら音程を動かせるが。
なお,理由もよく分からず,高校生に歌えなかったフォーレの Melodies に嵌まったのは,30台からフォーレの室内楽にどっぷり嵌まっていたせいでもある。これだけ↓の室内楽を書くのであれば,ちょいと歌も聴いてやろうかなと。

例えば,
Piano Quartet No1 in C minor, Op.15
ロジェ & イザイの定番。但し録音状態よくない。CDもそうなの(;_;)です。

Piano Quartet No.2 in G minor, Op.45
同上

Piano Quintet No.1 in D minor, Op.89
ロジェ & イザイの定番が youtube で探せなかったと思ったら,スコア付きでありました。

Piano Quintet No.2 in C minor, Op.115
もちろんロジェ & イザイの合わせものである。

どの曲も文字通り,陶然とする調べである。フォーレにしか書けない曲ですね。音楽史家はなんというか知らないが,フォーレの前にフォーレなく,後にもフォーレなしでしょう。
それに駄作がない。確かに,彼の耳が悪くなった最晩年の曲には乗りにくいものがあるが,でも当方の寿命が尽きる頃には分かるようになるかも(笑)。
ドイツ系の室内楽に嵌まっていた耳からするとフォーレの室内楽は完全に異質である。そもそも初めて聞いたときに,愕然と慌てるぐらいの衝撃を受けたのものである。多分,根っからの Faure おたくからすれば笑われるほど遅すぎる開眼ではあった。1989年には既に日本フォーレ協会が結成されていますしね。
それが嵩じて,国内のフォーレの演奏会にもしばしば出かけるようになった。当時は,バブルが崩壊した後だったので,まともな演奏家を海外から招聘できなかった頃である。それ故か,どこでも酷い演奏だった。これで日本人にはフォーレは歌えない,弾けないのだと分かった(苦笑)。本当に酷かった。フォーレの歌をオペラのアリアのように歌う歌手がいたのには呆れた。音大の教授である器楽の高名な演奏家の演奏も聴けたのものではなかった。
そして,Faure がきっかけになって我が「歌の時代」(笑)は幕を開け,今も続いている。

下らない自分史はともかくく,彼の歌を並べてみよう。
全曲を並べられないのが残念。

Nell Op.18-1
初期の名作 雲雀が空へ高く飛び上がるような華やかな歌だ。全然違うか(笑)

Les berceaux
Gerard Souzay

初期終わり頃の名作
スゼーの名演
その後のフランスの後輩たちの舟歌のお手本になっているような。
名作々と書いていくと全部が名作になってしまうのが Faure だ。駄作がほとんどない。

Il pleure dans mon coeur
スゼーの名演
フォーレ中期の傑作
これが一番好きな曲だろうかな。
歌詞は堀内大學の訳で有名なヴェルレーヌの「巷に雨が降るごとく」である。p のアルペジオが堪らなくよい。大學先生の訳が古めかしくてピンとこなく自分でフランス語の辞書を片手に訳文まで書いてみた(苦笑)。「街に雨が降るように,我が心に雨が降る」というありふれた訳になっただけだ。
スゼーの演奏は素晴らしいが youtube の録音はどれもいまいち。

Tristesse   春愁
Gerard Souzay
春になるとこの詩を想い出す。憂いと哀しみと。

Les roses d’Ispahan, Op. 39 No. 4
アメリンクおばさんの名演
これもいい! 柔らかな曲だ。中期の傑作でしょう。50年くらい歳を取ると良さが分かる曲である(苦笑)
但し,初期の頃の曲と違って益々歌いづらい。一所懸命さが分かるように歌ってはならないし(笑)。

3 Songs, Op. 8: I. Au bord de l’eau
by Régine Crespin
クリスパンという往年の名歌手を舐めていた。たいしたもんだ。前時代的厚化粧(笑)と声の質が気に入らなかったので近づかなかったが反省した。ビブラートの部分がなんともいえず美しい。
と、思って彼女の Legends というアルバムをゲットしてみたが、なんだろ。Sabine Devieilhe と同じ匂いがする。声に奥行きがなく地声のように聞こえるのは彼女がいったん声を潰したことによるようだが、私にはそれほど気にかからない。 問題は、むしろ何を歌っても同じように聞こえるという点だ。歌に表情が乏しい。それとレパートリーがやたらに広い。なんでも歌えるという感じが、本当に好きな曲はあるの?心底歌が好きなの?という感じが常に付きまとう。やはりオペラは歌手を駄目にするのか(笑)。

2 Duets, Op.10
by Soprano Vocals: Elly Ameling * 2
  Piano: Dalton Baldwin
アメリンクが一人2重奏をしている。
珍しい vocal 曲
実に美しい。

と言いながら,現在ではフォーレはあまり聞かなくなってしまった。Spleen などを聞いているとひたすら哀しみに付きまとわれるから。

私の下らない説明より,先に書いた

Gerard Souzay, Elly Ameling, Dalton Baldwin 1974

を手に入れてくだされ。以上の引用の曲の piano はほとんど全部ボールドウィンだ。

□ ピアノとセロ
Élégie
Henrik Dam Thomsen – Cello
Ulrich Stærk – Piano
言うまでもなく彼の室内楽を代表する名曲だが,この演奏には感心させられた。
オーソッドクスだが素晴らしい。

□ ピアノとフルート
Fantasie, Op.79
Claudio Barile (f)
Paula Peluso (p)
良く吹いたものである。
誤解のないように言っておくが良く吹いた(吹けた)のは1楽章のみである(笑)。

Lili Boulanger

1893年8月21日 – 1918年3月15日
新ウイーン学派が活発化する1900年台の初頭の約十年前に奇跡のように生まれた童顔の作曲家とまとめると変かな(笑)。

無調に向かう時代の影響を受けた作品もあるが,フォーレを父親代わりにしていた天才がおかしな影響を受け続けるはずがない。

その他

その他と言ってはいけない曲ばかりだが,フォーレに味を占めてフランスの同系の歌曲を聴くようになった。

☆ Duparc
Chanson triste
Jessye Norman がいい味を醸している。これもボールドウィンの伴奏。この方はリリカルな曲を良く歌いますし,しかも感心させられる。但し,見た目と曲のイメージが全然違うんだな(笑),などと書くとノーマンのファンから殺されるかもしれない(笑)。

L’invitation au voyage
Gerard Souzay  やはりフランスものはこの人を外せない。但し,piano は気に入らない,全然気に入らない。

フランクの弟子であったデュパルクは,30代に精神的な病から筆を折ってしまうという誠に残念なこと(本当にそう思う。)になってしまうが,彼の残した20曲にも満たないメロディは永遠に残るでしょうね。

Soupir
Michèle Losier
Daniel Blumenthal(piano)
あまり聞かない歌手だが旨い。


Phidyle
Wallis Giunta
Giuntaの歌う Duparc の曲は,youtubeではもう1曲しか探せなかったが,これが一番,彼女のよいところ(明晰さと若い女性の艶)が出ていると思う。

Elegie
指摘するまでもなくスゼー & Baldwin

こうやって挙げていくと彼も全曲を挙げそうになる(苦笑)。
なお,リンクが張ってない曲はピンとくる youtube がないからです。
お好きな歌手で デュパルク を全部聞いてください。非常にお勧めです。
ここで全曲をスゼーの演奏で聞いてください。

☆ Reynaldo Hahn
結構好きです。この時代の曲(フォーレより40才若い)のくせに歌いやすいから(笑)。
彼が書いた曲全部は聴いておりませんが,以下は好きですね。

Venezia, La Barcheta
Gerard Souzay やはりこの方です。piano はボールドウィンですね。
ピアノパートをそのうち guiter 用に編曲しましょう。小さな船に乗って guter の伴奏で歌うこそ合いそうな曲です。


Joyce DiDonato
ピアノパートをそのうち guiter 用に
先を越されたみたい(笑)。

Si mes vers avaient des ailes
Susan Graham
Roger Vignoles;piano
ねっ,歌いやすいでしょう(笑)。但し,ハーンも勘違いしてオペラのアリアのように歌わないこと。
スーザンは,ハーンがお好きのようですね。

Mai
もう,一曲スーザンの声で。
フォーレのメイも良いがアーンのメイも朗かで良いな。

Le rossignol des lilas
Susan Graham
Roger Vignoles;piano

A Chloris
Susan Graham
Roger Vignoles;piano

L’heure exquise
Anne Sofie von Otter
Bengt Forsberg;Piano
アンネ・ソフィー先生も歌ってますね。わたしゃ,ソフィー先生の歌が大好きなんですが,でも Hanh は少し違和感があるかも。

Solene Le Van
すごい才能を発見した↑。音楽環境(ピアノ&ホール)はちと問題ですが,ボーカルは最高です。まだ,若いから,今後が楽しみ。
    L’Enamourée
    D’une prison

Neere
Veronique Gens
Susan Manoff;piano
おっとこの曲を忘れるところ。
ベロニクは巧いな。piano も良いな。

L’Énamourée

Susan Graham
Roger Vignoles;piano

「恋せよ乙女」でしょうか,それとも「黄泉から蘇れ我が妹よ」かな?

うっとりするようないい曲です。

Hahn の piano の使い方に独特なものがありますね。vocal と piano が別の歌を歌っているような合わせ方といいましょうか。

Quand la nuit n’est pas étoilée

Susan Graham
Roger Vignoles;piano

☆Chausson
Le temps des lilas
Ruby Hughes soprano
少しショーソンについて触れよう。
聴いていると気恥ずかしくなるような曲が多く,そんなに聴いているわけではないが,ベル・エポックを取り上げているから。
まず,「リラの花咲くとき」これが一番有名じゃないかな。
演奏家はあまり聴かれないが,かなり私好みのリリカルな演奏ですね。

Poème de l’amour et de la mer
victoria de los Angeles, soprano (1923-2005)
Orchestre de l”Association des Concerts Lamoureux
Conducted by Jean-Pierre Jacquillat
オケをバックにした曲が多いことも特徴かな。

Les papillons, Op. 2, No. 3 Susan Graham Malcolm Martineau このパピヨンもよく演奏されますね。

Sept Mélodies op.2, No. 6 Hébé Véronique Gens Susan ManoffL ベロニカは上手いな。

☆ 現代シャンソン

現代シャンソンの源流は,Belle Époque にあります。

ここまで広げると始末に負えなくなるが,余り詳しくない現代シャンソンもここに少し

L’un part l’autre reste
by Charlotte Gainsbourg
Frédéric Botton (composer)
シャーロットも40才のおばさんで3人の子持ちになりましたか。時の過ぎるは早すぎる(笑)

La chanson des vieux amants
by Maurane
Jacques Brel(composer)

Petite Marie
by Exotica Paradis
Francis Cabrel(composer)

La Chanson Des Vieux Cons
by Vanessa Paradis
Benjamin Biolay(composer)

歌の時代は,「その1」という題名どおり(笑),まだまだ,フランスの歌の作曲者が続きます。