私の母は,その昔,札幌でタンゴの踊り子のアルバイトをしていたそうである。 そうであるという言いかたは物心ついた息子が「おかーちゃんにはふたつお腹がある。」(笑)と言っていたとおり「小太りのオバサン」というイメージしか息子にはなく,大正末年生まれの母がタンゴを踊っていたのは想像の外,一瞬でも脳裏に想うと眩暈がしたものである(笑)。多分,物置を探せば,母が整理もせずに持っていた78回転のタンゴのレコードが何枚もあるはず。
彼女が,こういうものが好きだった理由は,はきとは分からぬが,母やその口の悪い妹(直ぐ下の叔母である。)によれば,その父と母が,暇さえあれば,箏(祖母)と尺八(祖父)を合わせるのを日常(両名とも早死にしたので孫は彼らの腕前は知らない。)としていたそうであるから,こういう音楽好きの血からきているのかもしれない。私の音楽廃人のDNAも(口が悪いというDNAも^^;)きっとここから来ているに違いない。
よって,私のタンゴというとても上品とは言えない音楽が結構好きなのも血のなせる業であろう。

バブルの直前,赤坂にアルゼンチンのダンサーによる本格的なタンゴショウの店が開店して,その踊りに瞠目したことがあり何度か通った。例えば,さすがに今風の相手方ダンサーが女性ダンサーを片方の肩に乗せて首まで転がすなどという新体操も驚きのあれ
(このふたり凄いですね。同じパターンのステップを踏んでいるところが一カ所もない?) は無かったが,そこでは女性ダンサーが相手方ダンサーの背後に足を回してその背中の上方へ足を蹴上げるという現在のタンゴサイトでよく見かける
あれ 練習でもこれですからね。 はやってのけたペアがいた。

Milonga Triste by Musica: Sebastian Piana Letra: Homero Manzi
Juan Paulo Horvath and Victoria Galoto の足裁きを見てください。穏やかな振り付けでも危険な踊りであることはお分かりでしょう。

このふたりのステップからも容易には一定の踊りのパターンが見いだしがたいのですが,音楽の知識から推論するに,基本的な踊りのパターンに適宜アドリブを加えているん(もちろん音楽同様予め作って練習しておいてという意味です。)でしょうか。外れたらご免なさい。

↑ Piazzolla の曲ではありませんがいいでしょう? 歌詞も,三つ編みの黒い髪が似合う娘の死を男が悶え苦しみながら歌っている哀切極まりないロマンチックなものです。盲目の作曲者兼ハーモニカ吹きの Hugo Diaz 作曲者畢生の曲でしょう。
Sandra Lunano のもいいな。guiter が Milonga のリズムを刻んでいるのがはっきり分かるでしょ。

これらは,極端に性的な雰囲気のある踊りも含めて既に「社交」ダンスなどという範疇とは到底そぐわないと驚くと同時に,パートナーは練習時にはどれだけハイヒールで蹴飛ばされているのかと同情したものでもある。但し,私は「日本人には凄く(永遠に)早すぎる店だ。」とタンゴおたくの経営者に言ったことがあるが,やはりしばらくして潰れてしまった。踊りのプロをアルゼンチンから呼べばしようがないが料金が結構高かったのも影響したのだろう。タンゴの店は,今でも1,2東京に存在するがこの店に敵うものはまったくない。

この嘗ては,南米という限られた地域(但し,タンゴの発祥地はイベリア半島だ。)のダンスという世界でしか流通していなかった音楽を汎世界的にしたのはこの人である。
特に,彼の書いた Milonga のリズム(3:3:2)に乗せた短調の曲は堪らなくなるものがある。特に,pianoの奏でる独特のアルペジオが。

一時は,バンドネオンを本格的にやろうかとまで思ったが,この楽器は現在はほとんで製作されていないと分かって断念したことがある。情けない(笑)。
なお,ピアソラの曲は,それこそどっぷりと首まで浸かるほど聴いたので最近は「あんまりだ」が,それでも今でも時折聞いているは,以下のとおりである。
但し,あまりに著名な曲はなるべく挙げないようにした。

ふたりのマリア 一人目

Tanti Anni Prima Ave Maria
Tanti Anni Prima Ave Maria
string ensemble ricercar putrya valeria donetk ukraina Anna Bratus
ウクライナの演奏家たちですね。

元々,「アベマリア」という歌曲のアリアとして作曲されたものであり,タンゴでもなんでもない。piazzolla が書いたのかと驚くようなメロディラインを持つ魅力的な曲である。シューベルトのアベマリアのブエノスアイレス版とでも言おうか。

ふたりのマリア 二人目(笑)

Maria de Buenos Aires
タンゴオペラのために書かれたもので,「ブエノスアイレスのマリア」とはタンゴのことを擬人化しているのです。

お気に入りの演奏は上下の2つ。
vocal の Vesna Zorni は,ともかく(としか言えない怪演です。), Vn の Oksana Peceny が,メチャいいと思いませんか。この方もクラシックの演奏家ですが Piazzolla の演奏ほど良い演奏が他には見つかりませんでした。大分探したんですが(笑)。 あまりの快演だったからか彼らの演奏が AMAZON でアルバムが売られるようになりました(笑)

Yo Soy Maria by The Piazzolla Orchestra
mezzo-soprano の Andrea Pellegrini が文句なしにいい。佳人ですし(笑)。
この方もクラシックの歌屋さんですが,他に見るべき演奏がない(ように見える)のは上記に同じなのはどうしてでしょう。
なお,演奏者のうちアホ面を晒してアンドレアを見送る guitarist は多分私の分身です(笑)。

Soledad
特に,序章が終わって,タンゴネオンが主旋律を始めるのと同時に piano のこれってアルペジオなの?という独特のアルペジオがそれと対話しはじめるときにゾクッときません?
但し,youtube に up されたものは録音状態がよくない。
それが懐かしくて今でも時々聞き入るのです。

piazzolla は若い頃,正統な音楽作りを学んでいなかったことに劣等感があったらしく,Alberto Evaristo Ginastera やフランスに留学して Nadia Boulanger に師事して正統なクラシックを学んだことがこの曲に良い影響をしているのかもしれません。もっともナディアおばさんからは,「あんたに教えられるものは何もないわ。だいたいタンゴって卑下するあなたはタンゴのなんなのさ。」とタンゴと自分の関係をずばっと言い当てられて帰国したようです。 ちなみに,ナディアおばさんの元からはきら星のごとく著名な作曲者が輩出していますね。中南米では,Egberto Gismonti Amin (Agua e Vinhoなどなどなどの作曲者。これは私も良く弾きます。)などがそうです。ピアソラと同じ言い方で激励されているようです。

Milonga en re
レのミロンガ Gidon Kremerの独壇場 是非,音質の良い CDを get してください。
Kremer は,まっとうなクラシックの住人(極めて著名な vn の大会で賞を何度もかっさらっている。)でしたが,piazzilla に出会ってから,住む世界を代えましたね。 ターン,ターン,タンという3:3:2のミロンガのリズムが素直に分かりますよね。3拍子の前の2泊を引きずる,タンゴで女性が男性に引きずられて立てたつま先を滑らすようなところがこういうリズムになります。本当か(笑)
私の大好きな曲でした。

Oblivion
これも Gidon Kremer の独壇場 有名な曲は挙げないといいつつこの曲のこの演奏だけは抜かせないので。
これも youtube の up は音質が良くない。

ついでに:Oblivion
Nadia Kossinskaja
ピアソラの曲は,相当な数の guiter 編曲がありますが,あまり感心できないものがほとんど(ゴミの山 ^^;)ですが,これは結構聞けるでしょう。演奏者が手がけたものでしょうか。

Tango Apasionado
前記のなんちゃって新体操タンゴで引用の曲ですが,演奏ではこれが一番かなと思います。東洋人の女の子のカバーが謎ですが。 piazzolla 晩年の名曲です。

Vuelvo al Sur
それ程知られていませんが,vn & piano の名品です。終わりかなと想わせる後の繰り返の部分が,低音から強く吹き上げてくるようなメロディラインが秀抜です。感情の昂ぶりに任せる余り音を僅かに外す演奏者 Rusanda Panfili も可愛いもんです。可笑しな衣装を除き(フラメンコと同じで肌をなるべく見せてはいけない曲でしょう。)文句なしの熱演です。艶っぽくって猥雑な vn の演奏はこうでなくちゃ。アドリブのセンスも悪くない。piazzolla は演奏者をしてこんな風にさせることがあり,Kremerを典型例として piazzolla には変な力があります。
flute 用の編曲もありますが野卑な曲の魅力を引き出せてないです。

しかし,なんかこう書いてきて,piazzola て東欧の人間に特に受けるのかなということに気がつきました。

Remembrance
おっと,これを落としてはいけない。 メロディメーカーの面目ここにありですね。

でも,世界中の錚々たるクラシックの演奏者たちがこぞって彼の曲を演奏するのには,アンビバラントな気持ちに駆られる。それに相応しくないアレンジのゴミ山にもうんざりだ。

もっと人知れずに蠱惑的なブエノスアイレスのマリアを独り占めしたかった。

やっぱり,小太りのオバサンからTangoを習っておくんだった(笑)。