日本橋 誠

ステーキの店である。牛肉嫌いが何故と言うなかれ。
バブル前後のことである。私は,同店で肉嫌いを言ったら,連れて行ってくれた顧客から「黙ってくれ」と言われてしまった。
「おれが来れなくなる」と言われた。もちろん,亭主殿からは同旨の言はなかったが。

我が依頼者殿は,何故か小生を気に入ったようであちこち連れて行かれた。この人物はもう亡くなっているが。
泰明小学校前の銀座NO1のクラブもそう。時々超有名人も来ていた。店の外に黒服氏が何名も立っているような店である。
この店の女の子の7割が丸之内のOLだというのが触れ込みであった。若造の弁護士よりはるかに高級取りのような感じがした。
三社祭にも招待されたことがある。隣の席に座った和服の女将は京都の置屋の経営者で「日本人は相手にしてまへんで」とも言っていたっけ。

ステーキの店に連れていかれてしぶしぶステーキを注文したが,私が純粋に感心したのは,ステーキ肉を敷いて肉の味が染みたタマネキスライスの味だ(笑)。文句なく上手いと思った。
外国人ら(香港人)も時々来る様で,あの頃は,カウンターと小さなテーブルが備え付けられた小部屋くらいだったか。私だって知っている有名な野球選手も来るとのこと。
それと感心したのは,毎回,出てくる肉は違う産地のものであった。その都度,市場で選んでくるとのことだ。

この依頼者は無類の肉好きで,昼夜と立て続けで来ることもあると言っていた。
そのためコレストロールが凄いと自分でも認めていた。そのためお年の割に毎日凄い運動をしていた。それでも結局,心筋梗塞で亡くなった。
建物解体業の走りを始めた人であった。
一種の傑物であった。どこがかは,酒が入らないと言えない(笑)。子供が合計5~6人いた。全部母親が違うと言っていた。弁護士の依頼者には結構いるタイプだ。

まだこの店はやっているようだが,肉好きの人は一度行ってみると良かろう。但し,牛肉嫌いの私の話は話半分で行かれるとよい思う。かなりな料金(ステーキ定食が2万円だったか)であるし。ご亭主も相当な年齢であろうし。

生きている店の評価は誠に難しい。